京都はご存知のように1200年もの間日本の首都であると同時に文化や伝統の礎で、世界中から、文化都市として認知されています。そのなかでも嵐山は平安王朝の時代から貴族のリゾート地として知られてきました。星のや京都の在る場所は、豪商の別邸として300年、旅館として100年続いてきましたが、私はこの水辺に佇む私邸を「星のや京都」として、先人の意思を継ぐつもりでおります。
さて、かの藤原定家がこの地で時雨を歌に詠み豊かな叙情性を培ってきたように、みやこ人は自然をも自分の美意識に取り入れ独特の感性に転換させるのを得意としてきました。この京都の感性や感覚を科学し意識化することは、日本の文化の意義や位置づけを知ることになり、日本人らしさが納得のいく形に見えてくるのではないかと考えています。経済の大小ではなく、質での競争力が今後重要なポイントになってくる日本にとって意義あるプロジェクトになればと期待しています。
高度成長期の頃、吉兆のお客様は、文化人、会社経営者、政治家など、常連の方々がほとんどでした。しかしそれでは、時代にそぐわないと考え、イメージの払拭に注力してきました。「京都吉兆の持てる力すべてを持って、お客様に感動の末、涙していただきたい」そんな思いを胸に、味覚のみならず五感で味わう事を伝える為に、科学的根拠も取り入れ、伝統を再確認しながら、改革に挑戦し続けています。
日本、特に京都には食の世界のみならず、数多くの歴史ある伝統や文化が根付いています。文化と言われるものの成り立ちや、現代生活の中での必要性などを、次世代のためにもう一度、解体し積み直す必要がある様に思います。
最近になり、日本の食は海外で認知と人気を広めつつあります。食に留まらず、様々な日本の伝統と文化を国内はもとより、諸外国に向けて輸出できれば、それが本当に必要とされる日本作りにも大きく繋がると期待しています。